 |
奉書紙は本来、楮皮(麻葉、要楮、真楮など)の繊維を原料にして手漉き(流し漉き)で抄紙した嵩のある柔らかい和紙である。奉書とは執事または奉行から下した文書をいい、これを書き記す紙を奉書紙という。発端は、延元3(1338)年管領足利高経から越前に注文され、製造した御用紙が良質であったため出世奉書と命名されたのが奉書紙の始まりといわれている。奉書紙は室町時代の末期から江戸時代までもっぱら幕府の用紙として作られた。奉書紙の発祥地は福井県の今立町(昔の越前五箇村−大滝、不老、岩本、新在家、定友の五つの部落)であるが、いろんなサイズのもの、浅黄、紺などの色物とか、五色奉書、縮み奉書、五色縮緬奉書、墨流し奉書、打雲奉書、絵奉書、漆奉書など、模様のある重ね漉きした特殊な奉書紙も作られている。大正後期になると、奉書紙の産地は愛媛・福井の両県となり、福井の奉書紙を越前奉書(ソフトで肉厚)と呼び、愛媛の奉書紙は伊豫奉書(越前奉書に比べて値段が安く、肉薄で腰があり印刷向きである)と呼ばれ、別名柾紙ともいう。当時の伊豫奉書は、周桑郡国安村と吉井村とで産し、吉井村の奉書紙は藁も混入していた。現在では手漉きで純楮の奉書紙は、昔の面影としても容易に見られなくなり、奉書紙といえば機械で木材ハルプを原料としたものを指す。
|

|
 |
一部の文献では本来の奉書紙は木材パルプに充填剤として白米粉を混ぜて抄き、組織が柔らかく吸取紙のような親水性を生かしてあるのが特徴といわれている。表面のソフトな感じは低密度によるものであるが、水によく馴染み墨汁や水絵の具をよく吸い取って、スピーディな拡散を行わせる。この特性によって美術用の紙として、特に南画調の作品に向くため珍重されている。機械抄き奉書紙出現当時の市場で評価されていたのは東予市の杉野製紙(王泉)と、福岡の斉藤製紙(清流)両社の高白色度、金沢市の白山製紙(長生殿)の嵩高で表面性のよさ、トーヨ(当時の東予商事)の硬質抄きで高印刷適性などが特徴であった。当時の奉書紙は嵩高性を求められたため短網抄紙機で生産され、円網抄紙機の製品は紙の密度が高く、紙の方向性も大きく、紙がしまり硬くなることから、白仙貨として別類別されていた。皮肉にも、市場で評価されていた上記のメーカー中3社は、すでに奉書紙の生産から撤退、廃業しており、奉書紙の生産を続けているのはトーヨだけとなった。当然のことではあるが、用途の多様化とともに奉書紙に求められる機能も大きく変わり、従来の奉書紙の機能とは関係のないところで一人歩きを始めている。また、檀紙も愛媛と福井で生産されているが、従来は手漉きで漉いた紙に手加工でクレープを付けていたが、現在ではほとんど機械抄きに変わり、抄紙工程の中でクレープを付け、抄紙機から出るときはクレープ紙になっている。
|
 |
奉書紙の場合ほとんどが業務用で、紙の特性も末端消費者の意向に関係なく、中間業者の加工時の加工性や、印刷工場での印刷方法や印刷条件に合った紙質であったり、問屋のイメージなどに左右される。品質の均一化が一面的に進み、和風味のある品種が次々と姿を消しているのは手漉き奉書紙の縮図を見ているようである。今では手漉き奉書紙から機械抄きへ移行した当初の品質特性にはほとんど関係なく、印刷適性がよく、サイズの効いた平滑で加工性のよいものが好まれている。昔と変わらない水墨画や書を目的とした色紙原紙でも、末端の使用方法が大きく変わり、主力がマジックやサインペンによるサイン用などで、本来の機能である墨付きや墨の入り、墨の広がりなどの特性を求められる場合の方が希で、むしろ、従来から色紙の風合として嫌われてきた、平滑で紙の表面が撚れず、滲みの少ない紙の方が好まれている。また、色紙の加工も機械化されてきており、機械加工適性も重要な因子である。掛け紙においても、従来の筆書き専門家による筆書きが減少し、パソコンにセットされたインクジェット方式の印刷やコピーによる印刷が増え、熨(のし)や水引を4色オフセット印刷するのが常識となった。包装紙でも、表面がラフで光沢の少ない嵩のある奉書紙で、風合いを重視したものより、グラビア印刷やオフセット多色印刷か多くなった関係で、インクの乗り易い多少平滑でも印刷適性のよいものが主流となっている。機械抄き檀紙についても、目録の外包紙、金封、カレンダー原紙、高級レッテルなどに使われているがクレープがランダムで、クレープ山の生きている嵩高な高吸水のものも評価されるが、サイズが効いて、印刷時に見当がズレず、6色オフセット印刷の出来る機能を備えた紙も評価される。どうやら奉書紙を使う側では、かつての奉書紙として捉えず、紙の一種類として捉えているようで、当然要求される機能もかつての奉書紙を逸脱したものとなり、千差万別である。したがって、メーカーの知らないところで用途が多様化し、小口ット多品種化が進んでいる。また、かつて奉書紙として扱われていなかった円網抄紙機の製品が、市場の要望にマッチして立派な奉書紙に分類されるようにもなった。多機能化の進むなか、末端使用者に対する必要機能の把握が不十分で、的の外れた品質の紙を提供したり、不必要な機能を模索している場合が多くなり、奉書紙メーカーとしても、従来の奉書紙の機能にこだわりながら、幅広い視野での用途開発が必要である。
|
 |
| ●紙板紙 |
書道用紙 −雑種紙−家庭用雑種紙−その他家庭用雑種紙*
(*紙ひも、障子紙、ふすま紙、紙バンド、奉書紙、ティーバッグ、傘紙、油紙、のし袋などに使用されるもの) |
| ●機械抄き奉書紙の原材料 |
一般的には、木材(化学)パルプ100%でBKPがほとんど。紙の要求される機能により、NBKP、LBKPを組み合わせる。一部で、古紙、ケナフ、バガス、アバカ、その他靱皮繊維、合成繊維、レーヨン繊維などを配合する場合もあり、求められる機能でパルプの叩解を調整する。
|
 |
奉書紙の場合単品の統計資料がなく、統計上はその他家庭用雑種紙の中に分類されるが、その他の家庭用雑種紙の中で奉書紙の比率が低いため、統計資料から奉書紙の生産量の推移を推定することは困難であるが、メーカーの生産量の減少や得意先の情報から推定すると、市場は1,000t/月前後と言われ、上質紙の好不況に左右され増減は激しいものの、長期的に捉えると毎年3%以上の割合で需要量が減少している。短期で見るともっと低下が激しいと思われる。その原因を迫ると、印刷の高速化や、多色印刷化に伴う印刷適性などによる洋紙への切り替えや、洋紙とのコストでの競い負け、奉書紙の良さの理解者の減少、従来の奉書紙にとらわれるあまり、市場の要求する機能を備えた新しい紙の開拓の遅れなどいろいろ考えられる。浅く限られた市場なので得意先の取り合いも激しく、多品種小口ットであるためいっそうコストが厳しくなり、生産量の減少もあるが、商品価格の低下による出荷金額の低下も見逃せない。
|
 |
印刷会社は多色刷り化、ハイスピード化、高品質の刷り上がりに挑戴しており、奉書紙の紙質も平滑で紙粉が少なく、高い表面強度特性が要求され、洋紙との差がいっそう減少している。一方、加工においても、中国や東南アジアでの加工が増加し、その加工環境の悪さに対応できる機能を求められ、また、国内では複雑な加工か増加しそれに対応できる機能も求められている。奉書紙の機能から逸脱した用途に使用されているものも増加はしていくだろうが、需要回復には届かず、このままのコスト競争と洋紙化では、かつての手漉き奉書紙の二の舞になるのではと危惧される。長期的に見ると、やがて中国、東南アジアの抄紙技術が向上し、現地で奉書紙を生産し製品加工まで一貫で行う心配があり、日々上質紙に近づいている紙質は上質紙の脅威にさらされ、さらに中国、東南アジア製品の狭間でどう商品化を進めるか。はたして、従来の機能を見据えながら、奉書紙を逸脱した奉書紙が出来るのか、課題はあまりにも大きく決して前途洋々とはいえない現状である。
|
| 〔井原 稔/(株)トーヨ 技術アドバイザー〕 |